ここまで見てきたように、次世代リーダーに求められる資質やスキルは幅広くあります。次世代リーダーを育てていくためには、これらの要素を網羅できる人材や教育が必要であり、そもそも育成の難度は高いといえるでしょう。実際に弊社の調査やインタビューでも、次世代リーダーの育成に満足できていない企業が多々見られました。
その他にも以下のような理由から、次世代リーダーの育成に向けた施策を検討しながらも、課題を抱えている企業は多くあります。
次世代リーダー育成が難しい理由1 教えられることに限界がある
例えば先ほども出てきたリベラルアーツやシステム思考などは、研修やセミナーで知識として教育することが可能です。その他にも、次世代リーダーの候補であることを伝えて意識を持ってもらう「自覚の機会」や、他社のビジネスパーソンや業界に触れて刺激を受ける「外に出る機会」など、会社側が用意して教育できることは数多くあります。
しかし次世代リーダーとして、今後の経営を担っていく強い覚悟や責任感は、他者から教えられるようなものではありません。経営者になれば、時には逃げ出したくなったり、大きく動揺したりする場面には何度も遭遇するでしょう。そうした際に、本人自身に圧倒的な当事者意識と強固な意志がなければ、経営を続けて組織を先導するのは難しいといえます。
このように次世代リーダーを担うための基本として求められる強烈な想いを持てるかどうかは、本人次第です。各自の精神性に左右される部分も大きいことが、次世代リーダーの誕生につなげられない要因の1つとなっています。
次世代リーダー育成が難しい理由2 複雑な組織の問題が絡んでくる
次世代リーダーの候補者が存在しているにもかかわらず、会社として発掘できないケースもあります。例えば次世代リーダーの育成に向けて、より豊富な経験の蓄積や社内状況の把握のために、各人材に対して異動や転勤を命じることもあるでしょう。
そうなると各部署に優秀な人材がいたとしても、そのチームとして手放したくないがために、人事部門に報告しない例も見受けられます。優秀な人材は社内で引く手あまただからこそ抱え込まれやすく、次世代リーダーになれるはずが埋もれてしまう場合があります。
次世代リーダー育成が難しい理由3 ビジネス・社会構造の変化
社会情勢が大きく動いた2020年のコロナ禍以降は、これまでの常識を覆すようなパラダイム・シフトの意識が強まり、ビジネスシーンでも革命的な動向がどんどん見られるようになりました。技術革新もスピーディーになり、デジタルトランスフォーメーション(DX)が積極的に推進され、想定外の破壊的なイノベーションが起きる事例も多々発生しています。
業界構造が激変することも珍しくなく、経営の難度が増していることから、その分次世代リーダーの育成も困難になってきています。
また「人生100年時代」といわれるほど平均寿命が延び、職業人生も長くなっていることから、人々のキャリアに対する考え方も変動しています。日本の人事体系も年功序列からジョブ型に変わり、転職も当たり前になってきている昨今。1つの会社で長く勤める概念も変化してきており、人材の流動性は高まっています。そうなると新卒や社歴の長い社員を育てて、次世代リーダーを任せようと考えていても、会社を離れてしまう可能性も大いにあります。
そうしたなかで、何年もかけて計画的に育成を進めるのが難しく、次世代リーダーを輩出できていない企業が多いのが現状です。